ESCとは
ラジコンの世界で一般に「ESC」と呼ばれるものは内部に ①電界効果トランジスタ(FET)を使用したアンプ ②制御機構(ESC=Electronic Speed Controller) ③バッテリーの電圧を5Vに変換するレギュレータ(BEC回路) が含まれています。そのため「ESC」のことを「アンプ」や「スピコン」と呼ぶこともあります。3つの回路を含んでいるので呼びようがないと思います。 受信機と「ESC」の間は周波数50HzのPWM(Pulse Width Modulation)で信号をやり取りします。 アンプからモーターへの電力供給もPWMです。こちらの周波数は8,000Hzなどが使われています。バッテリーの電圧を制御機構の信号によりパルスでモーターのコイルに伝える役割を担います。 ブラシレスモーター用とブラシモーター用があります。ブラシモーターは電源電圧を上げると回転数は単純に上昇しますが,ブラシレスモーターは回転する磁界を利用しているので,話がややこしくなります。
PWM周波数
「ESC」のアンプの部分が発生するパルスの周波数(PWM周波数)は一定ですが,パルスの幅の広い部分と狭い部分の変化する速さを利用してコイルの電圧の周期(駆動周期)を変えられます。 また,各パルスの幅を一定の割合で一斉に広げたり,狭めたりすることで供給する電力を変えられます。 正弦波駆動(下図上)と矩形波駆動(下図下)があります。
これをPWM制御方式と言います。パルス幅変調(Pulse Width Modulation)の略です。パルス幅を広げると上図の山の高さが増えます。 「ESC」のアンプが発生する周波数(PWM周波数)は,製品によって異なりますが,8~32KHz程度が多いようです。 1,200KV,極数14のモーターに14.7Vの電圧を加えた場合のコイルに加える電源の周波数(駆動周波数)は
です。60で割るのは1秒当たりの回転数に直すためです。14/2倍するのは一つのコイルを1サイクルで2個の磁石が通過するので7組の磁極が通過したときローターが一回転したことになるからです。 PWM周波数は必ず駆動周波数よりも大きい値です。PWM周波数が小さく,高回転モーターが使えない「ESC」もあります。 (計算式は「モーターの仕組み」参照) ●周期(t)と周波数(1/t=Hz)は逆数です。 ●一般の三相交流モーター(商用電源利用)も直流変換してPWM制御をしています。(インバーター回路)
磁界の回転とローターの回転
スロットルチャンネルから与えられた信号を制御機構(いわゆるESC)はアンプに送り,アンプはバッテリーの電力をコイルにお送り,コイルの磁極は回転していきます。この回転数とローターの回転数は一致するとは限りません。一致させるにはローターの回転数を知る必要があります。これには二つの方法があります。 ① モーターにセンサーを付けて制御機構(ESC)で受け取る。センサー付きモーターとそれに対応したESCが必要です。 ② モーターのコイルには磁石の回転に伴い誘導起電力(逆起電力)が生じます。これを検出する。 いずれも回転不足ならコイルに加える電力を増やし,回転過多なら電力を減らします。 ③ 何もしない。 ①と②はスロットルの情報とモーターの回転数を比較し,回転不足なら電力を増やし,回転過多なら電力を減らします。 ③はモーターの回転数に関係なくスロットルの情報だけで電力を決定します。
サーボと受信機への電源供給
BEC回路内蔵ESC 「ESC」に限らず受信機,サーボなどの動作電圧は5Vです。そのためバッテリーの電圧と差がありこのままでは使えません。したがってバッテリーの電圧を変換する必要があります。「ESC」内部でこの役割を担っているのがBEC回路です(Battery Eliminator Circuitry=バッテリー除去回路)。
BEC回路はまた受信機やサーボの電源としても利用されます。上図は2セル7.4Vのバッテリーを繋いだ時の回路です。赤が電圧供給,緑が信号です。 BECにはリニア型とスイッチング型があります。 リニア型は電位を落とすために発熱します。特にバッテリーとの電圧差が大きい場合,ロスが多く発熱します。したがってセル数が多くなるほどBECの出力が減る逆転現象がおこります。セル数が大きくなると使えるサーボの数が減ります。下図はFLYFUNのカタログデータです。
セル数 | リニアモードBEC 5V 2A 使用可能サーボ数 (スタンダードサーボ) |
2 | 5 |
3 | 4 |
4 | 3 |
5 | 2 |
スイッチング型はスイッチングレギュレータで電圧を下げるのでリニア型より効率が良く,発熱が少ないという特徴があります。ただし,ノイズは多くなります。ラジコン用はほとんどリニア型です。 BECの出力はメーカーにより異なりますが,およそ次のようになっています。
10A ESC | 5V | 1A |
20A ESC | 5V | 2A |
30A ESC | 5V | 3A |
双発機の場合は片方のBEC回路から,ESC2個,受信機,サーボ最低4個に電流を供給するので,電流不足で電圧が下がり受信機やサーボが予期しない動作をすることがあります。 ●「ESC」内部の制御機構は一種の小さなコンピューターです。最近32bit「ESC」がありますが,これはこの部分の信号の単位が32bitという事だと思います。つまり演算速度が速いということだと思いますが,今までの「ESC」で反応速度に不都合を感じたことはありません。ラジコンカーやマルチコプターなどのレースでは効果があるかもしれません。
コネクター モーターと「ESC」をつなぐには回転方向を確認してはんだ付けしても良いのですが,モーターの取り換えなどのことを考えるとやはりコネクターを使った方が便利です。いろいろな形状があるので注意が必要です。
バッテリのコネクターは初めから付いているものが多くなってきましたが,「ESC」側はついていないのではんだ付けが必要です。 jstタイプはんだ付けではなくて圧着ペンチで圧着します。 コネクターについては「バッテリー」のページも参照してください。圧着については「工作のテクニック」のページを参照してください。
↑左からT型,XT60,XT30,JST JSTコネクターははんだ付けできないのでコード付きの購入をお勧めします。 下がESC側です。(JSTは左)
外部BEC回路 次のような場合,外部BEC回路が必要です。 ① 一つの受信機に複数のESCをつなぐ必要があるのでBEC回路がついていない場合。マルチコプター用など ② ESCの発するノイズが受信機に影響を与えないようにするためBEC回路がついていない場合。 ③ サーボなどの数が多く,ESCのBEC出力が不足する場合。双発機など。 ④ 動力用バッテリーのセル数が多く,BECでのロスが多いとき このような場合は別に5Vの電源が必要です。 ② についてノイズ対策を徹底するために受信機と制御回路の間を光通信(Optical communication)で行うタイプがありす。これは受信機からの信号を取り込むのに制御回路の入り口で光通信を行っています。OPTO方式と言います。
BEC出力のあるタイプもBEC出力のないタイプも見かけ上は変わりません。マルチコプター用の「ESC」はBEC回路が付いていないことが多く,その分安価です。
リポバッテリーの電圧から5Vへの変換レギュレーターを外部BECまたはUBEC(Universal Battery Elimination Circuit)と言います。これもリニア型とスイッチング型があります。
サーボや受信機などの動作電圧は5Vが世界規格です。リポバッテリー1セルでは電圧不足,2セルでは電圧が高すぎます。2セル以上のリポバッテリーから5Vに電圧を下げることになりますが,使用可能なセル数の上限があります。その範囲であれば動力用バッテリーに直結できます。動力用バッテリーとは別に小さめの2セルバッテリーを使う方法もあります。 一般的に使用可能なセル数が少ないのはリニア型,多いのはスイッチングが型と言えると思います。 外部BECもノイズを発生するので,ニッケル水素かニッカドバッテリー(4セル4.8V)を使うのがベストかもしれません。(重くなりますが)
上の写真はUBEC(変換レギュレーター)です。高調波成分除去用のノイズフィルター(フェライトコア)が付いています。 双発機の場合は2個のESCを使いますが,2個のESCのBEC回路を並列にすることはできません。配線方法は次のようになります。
UBECの使用法 1
UBECの使用法 2 片方のESCのBEC回路を使用 こちらはUBECを使用しない双発機の場合の配線図です。片方のESCのBEC回路だけ使います。
UBECの使用法 3 両方のESCのBEC回路を機器ごとに分けて使用 サーボの電源を分割することで両方のESCのBEC回路を使うことができます。0Vラインはすべて共通なのでこの例では「ラダーとエレベーターサーボ」と「受信機とエルロンサーボ」の組み合わせで別のBEC回路から電源を供給しています。はんだ付けが多少面倒ですが……
●OPTO方式とBEC回路がついているかどうかは関係ありません。ただし,BEC回路はノイズを発生するので,ノイズ対策のためのOPTO方式にはBEC回路は付いていません。「OPTO方式=BEC回路なし」と考えてもよいかな?
ESCを選ぶには
マニュアルの確認 購入前に必ずマニュアルをよく見て,最大電流,BEC回路の方式と有無,設定の方法などを調べることが必要です。練習用ラダー機のESCを買ったときドローン用でブレーキ設定ができないものを買ってしまったことがあります。しかも4個セットで…… マニュアルが公開していないものは買わないことです。 HOBBYWING FLYFUN ESCのカタログデータです。
●BECのLはリニア方式,Sはスイッチング方式のことです。OPT方式のESCはBECを内蔵していません。 ●最大電流は出力用のトランジスタ(FET = Field Effenct Transister=電界効果トランジスタ)の規格です。FETはオーディオ機器(amplifier=増幅器)にも使われています。 ●セル数が多くなるとサーボの使用可能数が減ります。外部BEC回路が必要になります。 ●ESC内蔵のBEC回路についてリニア型をUBEC,スイッチング型をSBECと書いて区別することがあります。外付けBECと紛らわしいのでリニア型はLBECと書いて欲しいのですが HobbyKing 10A ESC 1A UBEC の表記です。
まとめ 「ESC」を選ぶときに注意することをまとめてみます。 ①モーターの使用電圧に耐えられるか。対応セル数を確認 ②バッテリーを自動認識できるか(ほとんど自動認識です。念のため) ③モーターの使用電流に耐えられるか。ほとんどのモーターには奨励「ESC」が示してあります。 モーターのカタログの電流は最大電流ではありません。よく3セル11.1Vとありますが3セルの最大電圧は12.6Vです。 ④モーターのKv値から計算した回転数をクリアしているか。 Kv値×4.2V×セル数(100%充電で4.2V)たまに「〇〇転以下」の記載があります。 ⑤BEC出力の有無。(マルチコプター用は無いものもあります。) ⑥ブレーキ設定ができるか。(マルチコプター用はできないものもあります。) ⑦送信機のスロットルの範囲はどのようにして認識するか。など設定方法の確認 フルハイが普通のようですが最スローで認識するものもあります。 ⑧プログラムカードが必要か プロポからの操作による設定の場合すべての設定項目を設定できないものがあります。 EMAXなどは将来すべての項目をプロポ設定にして,プログラムカードはなくす方針のようです。 ⑨内蔵BECはサーボ数に耐えられるか ●回転数が書いてない場合は,PWM周波数と駆動周波数を比較する必要がありますが,PWM周波数は8Khzで十分です。 ●最も大切な作業は設定です。説明書をなくした場合,webで検索すればpdfファイルなどが見つかります。英文がほとんどですが,翻訳サイトもあります。時間がたつとリンク切れになるので,早めにダウンロードしておくことが大切です。
↑pdfファイルをダウンロードするには,開いたファイルの右上の矢印マークをクリックします。
●廉価版は使えるのか? 結論を言うと使えます。中国製が多くマニュアルが英語と中国語だけの場合が多いのですが,マニュアルを翻訳して使用方法を間違えない限り壊れることはありません。 ショップなどでマルチコプター用と書いてあってもマニュアルを見てみるとブレーキ設定ができたりカットオフがONだったりします。そもそもマルチコプター用と飛行機用の区別はありません。ただし,マルチコプター用はBEC電源がない場合もあります。
ESCの設定特に設定しなくても(工場出荷時の設定)自動認識するので難しいことはありません。次の二点です。 ⑴ 初期設定 最初にESCにスロットルの範囲を記憶させます。スロットルを一番上にしてESCの電源を入れます。ほとんどのESCで音が鳴るので直ぐに一番下まで下げます。この操作は初めの1回だけです。 そのままにしておくと設定モードに入ります。 ⑵ 各種設定 スロットルを一番上にしてESCの電源を入れます。そのままにしておくと設定モードに移動します。 設定項目と順番はESCによるのでマニュアルに従います。 設定するのはブレーキだけで良いと思います。 ●いくつかのESCについてはトップページの下の方に「ESCマニュアル」があります。参考にしてください。