図面の作製

模型飛行機を作るとき,スケール機または実機を参考にすると思います。しかし実機のスケールダウンではなかなかうまく飛びません。
スケールダウンしたときの最大の問題は翼面荷重です。翼面荷重が大きくなるので翼面積を大きくすることになります。「飛行を安定させるには」のページに述べてあるようにちょっとした安定性の計算が必要になってきます。

飛行機図面の作製

図面のダウンロード 「Target For Today」のサイトに機体の図面が豊富にあります。トップページ左のメニューの「Simple Multi-View Plans」をクリックします。  飛行機名は正式名でないと検索できません。例えばツイン・オッターの正式名は「デ・ハビランド・カナダ DHC-6 ツイン・オッター」なのでページ上部の「D」をクリックして見つけます。ゼロ戦は「Mitsubishi A6M5 Zero」です。サイズはA4程度です。

飛行機図面の作製

  Target For Today(飛行機図面)

Excelで拡大・印刷  コピーした図面をExcelで拡大・印刷 ブラウザで画像にマウスを当てて右クリック,「画像をコピー」で画像を取り込みます。取り込んだ画像をExcelに貼り付け,拡大します。  A4用紙は210×297mmのサイズですから拡大しながらおおよそのサイズが分かります。  Excelの「余白」「ユーザー設定」で左右を0.5にします。単位は㎝なので,一ページの横サイズが20㎝になります。  貼り付けた画像をマウスでドラッグして拡大します。  下図の場合は,横方向にA4用紙四枚なので,翼弦長は約80㎝になります。あとは印刷して糊付けします。

飛行機図面の作製

 次に単なるスケールダウンでは飛ばないので,主翼を広げたり,尾翼を広げたりしながら赤のサインペンで実際の機体を描いていきます。  おおよその機体重量から翼面荷重や揚力,飛行最低速度,安定性を考えながらサイズを決定していきます。  安定性は水平尾翼と垂直尾翼の面積はモーメントアームも考慮しながら容積比なども計算して決定します。 「飛行を安定させるには」のページに計算式と計算用のExcelファイルがあります。

CADの活用  無料のAR_CADを使って図面を作ります。AR_CADのダウンロード先はこのページの一番下に掲載してあります。 ①ブラウザで画像にマウスを当てて右クリック,「画像をコピー」で画像を取り込みます。取り込んだ画像を「ペイント」に貼り付け保存します。形式はpngが良いと思います。 ②AR_CADを開きます。 ③画面左上の「ファイル」をクリックし,「インポート」,「pngファイル」で先ほどのファイルを指定します。 ④図をマウスで「右クリック」→「プロパティ」→「不透明度」を選択し,不透明度を下げます。(20%程度?) ⑤画面左下方の「寸法記入」で画像の大きさを図ります。 ⑥図をマウスで「右クリック」→「変形」「拡大縮小」で必要なサイズにします。 マウスのホイールで画面の表示倍率が変わります。 画面左上の「要素選択」をクリックして次の処理に移ります。

飛行機図面の作製

↑⑦画像ファイルの上から作図していきます。

飛行機図面の作製

CADで作製した図は実寸大でプリントできます。ただし,用紙サイズの制限があるので,パーツごとに印刷すればよいと思います。

模型の翼面積と総重量

 実機感あふれる機体が飛ぶのは感動を覚えます。  機体を作成するとき,実機のスケールダウンではなかなか飛びません。実機も模型も同じ空気密度の中を飛ぶので当然です。同じ飛び方をするためには密度が大きくならないと無理です。  下表はこのサイトで紹介した機体のデータです。  機体の大きさ(翼長,翼面積)から仕上がりの総重量を予測します。モーターは機体重量の10%程度,バッテリーは20%,メカ類を10%程度とすれば総重量の60%を機体本体の重量と考えればよいと思います。

簡単工作シリーズ翼長
翼面積
2
総重量
g
翼面荷
重g/dm2
練習用EPS機 60.0 990.0153.5 15.5
練習用EPS機100g 60.0 810.0 98.2 12.1
練習用ラダー機 66.0 990.0146.5 14.8
5㎜EPS機 TypeⅠ 55.0 880.0176.5 18.2
10㎜EPP30倍 TypeⅡ 80.71412.3319.5 22.6
7㎜EPS タイプⅢ 74.71295.2324.5 32.5
練習用軽量セスナ TypeⅠ 65.01105.0300.5 25.6
練習用軽量セスナ TypeⅡ 65.01173.0184.0 16.7
軽量モーターグライダー130.01950.0284.5 14.6
ハイパワー練習機 80.01260.0483.5 40.0
ダイソー300円グライダー 46.0 391.0 80.3 17.0
スケール機シリーズ   翼長
翼面積
2
総重量
g
翼面荷
重g/dm2
Morane-Saulnier L 64.0 910.0 173.0 21.5
Robin HR-200 65.8 987.0 243.5 24.7
InterPlane Skyboy 77.61202.8 301.0 25.0
Sessna140108.01814.4 614.5 33.9
Sfan2110.01650.0 530.0 32.1
SZD-45A Ogar162.42452.2 572.0 23.3
Anderson-Greenwood-14 87.01392.0 539.5 41.3
North American Bronco 91.01456.0 582.5 40.0
Piper PA-34 Seneca 90.01440.0 636.0 44.1
Wassmer WA-41128.02683.61360.0 50.7
Havilland Canada DHC-6124.02108.0 996.0 47.2
Aurora25レプリカ130.43220.91645.0 51.1

 翼面荷重は小さいほどゆっくり飛びます。グライダーなどは翼面荷重は小さく作ります。ただし,翼断面の形状によっても揚力の大きさはことなります。 翼断面と揚力については「翼型の比較と断面図の作製」を参照してください。


実機と模型の違い

実機と同じ縮尺のとき何が不都合か

 セスナ150を1/10,1/15,1/20のスケールで考えて見ます。実機の写真と仕様は次のようになっています。

セスナFA150K セスナFA150K
セスナFA150K 実機のデータ
全幅10.2 m
翼弦超1.4 m
翼面積14.4 m2
全高 2.6 m
空虚重量504 kg
最大離陸重量730 kg
巡航速度198 km/h
セスナFA150K Hullavington airfield, Wiltshire, England
via Wikimedia Commons [Public domain]
(Wikipedia)

 各スケールのサイズは下のようになります。  スケールが小さくなるほど翼面荷重は小さくなるようですが,重量もスケールダウンしてあります。重量を見るとバッテリーやESC,サーボなどの重さを考えるととてもその重さで作ることは不可能です。  1/15スケールのとき翼長66.7㎝で216.9g,1/20スケールでは翼長50㎝で91.5gとなってしまいます。(上図の青の部分)  1/15スケールで350g,1/20のスケールで250g程度が妥当な重さだと考えます(下表の赤の部分)

重量もスケールダウン

実機スケール機
1/101/151/20
全幅1000100.066.750.0
翼弦長140 14.09.37.0
翼面積2140000 1400622.2350.0
dm2140014.06.23.5
重量g732000732.0216.991.5
翼面荷重g/dm2522.952.334.926.1
レイノルズ数5m/s49271327302464
10m/s98542654614927
20m/s1970895
失速速度Km/h78.0

重量は製作可能な値(推定)

実機スケール機
1/101/151/20
全幅1000100.066.750.0
翼弦長140 14.09.37.0
翼面積2140000 1400622.2350.0
dm2140014.06.23.5
重量g732000732.0350250
翼面荷重g/dm2522.952.371.426.1
レイノルズ数5m/s49271327302464
10m/s98542654614927
20m/s1970895
失速速度21.7m/s


 スケールが小さくなるほど翼面荷重が大きくなってしまいます。さらにレイノルズ数と揚力係数の関係を見るとレイノルズ数が小さい(翼弦が短い)と揚力係数は減少してしまいます。

AF-34 ClarkY 揚力係数比較

スケールを落とすほど翼を大きくしてレイノルズ数を増やし,翼面荷重を減らすことが必要です。 1/10スケールで翼幅100㎝の場合も重さは1,000g程度が下弦だと思います。この条件で最低速度を予測してみます。1/10のスケールで重さ1,000gの時は次のようになります。

1/10スケール,1,000gの時の翼面荷重(推定値)

全幅100㎝(1/10)
翼弦長14㎝(1/10)
翼面積1,400㎝2=14dm2
重量1,000g
翼面荷重71g/dm2
(1dm2=0.01m2=100㎝2

 次にこのときの最低速度を予想してみます。

翼弦長14㎝のときのレイノルズ数

5.2m/s49,863(約 50,000)
10 m/s95,890(約100,000)

レイノルズ数50,000と100,000のときの揚力係数はデータがあるのでそれを使って計算すると

5.2m/sのときの揚力

迎え角   揚力係数   揚力    
1.0°0.2387511gf
2.0°0.3833822gf

10m/sのときの揚力

迎え角   揚力係数   揚力    
1.0°0.49501,059gf
2.0°0.60851,302gf

 仰角2°で水平飛行する場合,10m/sに近い最低速度が必要になります。これは速すぎます。特に着陸時には苦労しそうです。操縦しやすいのは3~4m/sだと思います。

揚力係数が最大になるのは翼型や速度にもよりますが,迎え角は12°から15°です。15°の迎え角で滑走路に進入するのは無理です。しかも最大揚力係数を超えると失速となります。1~2°の迎え角で進入するのではないでしょうか。最大揚力係数のときの迎え角を「失速迎え角」と言います。

スケール

揚力やレイノルズ数の計算は,空気密度を1.29㎏/m3,翼面積の単位を㎝2,揚力の単位をgf,速度の単位をm/sとすれば揚力(Lift)とレイノルズ数(Re)は次のようになります。  Lift=0.0645×速度2×翼面積×揚力係数(gf) Re={(速度×翼弦長)÷1.46}×105 です。揚力係数はレイノルズ数が大きくなると増加します。  速度が減少したとき   Re減少 → 揚力係数減少 → Lift減少  となります。そこで次のように対応します。   Reを増加させる   → 翼弦長を増やす(揚力係数はあまり増加しません)   liftを増加させる   → 翼面積を増やす → 翼弦長を増やす。翼長を増やす。  とくにliftは速度2に比例するので翼面積の増加がそれを上回る必要が有ります。  効果的な対応は翼弦長と翼長の両方必要です。 レイノルズ数は「速度×翼弦長」に比例するので,速度を減らしても同じ揚力を得るためには(レイノルズ数が変わらない)翼弦長を増やせばよいことになります。  つまり,ゆっくり飛ばすためには翼面積を増やすせばよいことになります。 揚力係数の測定値については「Airfoil Tools」のデータを使いました。 揚力の計算は「翼型と揚力」のページに詳しく説明してあります。 翼長120㎝以上の機体は主翼面積を増やす割合は少ないか実機のスケールでもよいと思いますが,翼長60㎝程度の機体は主翼面積を増やす割合は大きくなります。

翼面積の変更

翼面積の変更の影響  もちろん縮尺を守って作るのがベストですがどこかで妥協しないと最低速度が大きくて飛ばしにくいと思います。  翼の幅や長さだけ大きめに作ると揚力は増えますが安定性は損なわれます。安定性を保つためにどこをどうするかを判断するのにどうしても簡単な計算が必要です。「水平尾翼容積比」,「垂直尾翼容積比」「翼面荷重」を計算しておけば,安定性のある機体を作るのに大いに参考となります。    実機のスケールダウンと翼面積を変えた場合について安定性を計算した結果が次の図です。  今度は機体総重量600gと仮定して,翼長80㎝にスケールダウンして計算して見ました。赤枠の部分が問題です。 この計算は「飛行を安定させるには」のページに詳しく説明してあります。

主翼の変更

Cessna152質量翼長翼弦長翼面積翼面荷重
実機のスケール60080.09.0720.080.3
主翼面積2倍600100.014.01400.042.9

↑主翼面積を2倍にすると簡単に翼面荷重は1/2になります。



水平尾翼の変更

Cessna152平均
翼弦
翼弦長翼面積M
アーム
容積比
実機のスケール7.724.3185.930.60.88
主翼面積2倍7.724.3185.930.60.29
10.030.0300.033.60.51

↑主翼面積を2倍にすると水平尾翼面積がそのままだと安定性が悪くなります。(①の赤の値)  水平尾翼面積も増やすと安定します。(②の値)



垂直尾翼の変更

Cessna152平均
翼弦
高さ翼面積垂直
/水平
M
アーム
容積比
実機のスケール7.712.092.449.7%36.00.058
主翼面積2倍7.712.092.449.7%36.00.024
10.013.0115.038.3%38.00.035

↑同様に主翼面積を2倍にすると垂直尾翼面積がそのままだと安定性が悪くなります。(①の赤の値)  垂直尾翼面積も増やすと安定します。(②の値)



翼面荷重の検討  翼面荷重は飛行機の性能でよく話題になりますが,翼面荷重は最低速度と密接な関係があります。翼面荷重は次のように定義されます。(翼面荷重の単位はg/dm2です。)    分数  最低速度は前出のLiftの式から,Lift=機体重量(mg)とすれば    分数 と表されます。翼面荷重をA(g/dm2),揚力係数をCLとすれば最低速度は    分数 となります。仮に揚力係数を0.2とすれば次のようになります。

翼面荷重最低速度
  505.4 m/s
  404.8 m/s
  304.2 m/s
  203.4 m/s
  102.4 m/s

揚力係数は速度や翼弦長,迎え角,翼型により異なります。迎え角1~2°で滑空していると仮定しました。一応の目安です。

 翼面荷重は1m程度のスパンの場合50以下が望ましいと思いますが,実機のスケールダウンの場合83.3となってしまいます。  これを1/2にするには,重さを1/2にするか翼面積を2倍にするかです。重さを1/2にするのは無理なので,翼面積を2倍にしてみました。翼面荷重は42.9になります。

 ところが翼面積だけ2倍にすると水平尾翼,垂直尾翼の容積比が不安定領域になってしまいます。したがって垂直尾翼と水平尾翼も大きくする必要が出てきます。  模型飛行機の場合,水平尾翼容積比は0.30~0.60,垂直尾翼容積比は0.02~0.05の範囲が良いようです。  今まで作製した機体で安定した飛びを見せる機体の容積比は

水平尾翼容積比0.45~0.55
垂直尾翼容積比0.05~0.07

 でした。  水平垂直尾翼面積,モーメントアームを増やしてなんとか安定性を確保できるようです。(図の一番下「翼面積を2倍,他を変更」)

揚力を計算しなくても揚力係数が分かれば翼面荷重から簡単に最低速度が求まり便利です。 容積比の値が大きければ安定,小さければ不安定になりますが,安定性が大きすぎるとこんどはラダーやエレベーターが効きません。  パワステの無い昔の車は直進安定性が高いとハンドルが重いし,自転車も直進安定性が高い(前輪の傾きが大きい)と曲がれません。



参考文献等  ▶Airfoil Tools  ▶セスナ 150(Wikipedia)  ▶Airplanes   ▶模型航空機の安定(Wikipedia)  Target For Today(飛行機図面)  AR_CADダウンロード  フリーで公開していただいて大変ありがたく思います。日本企業なので表示,マニュアルも日本語です。また,web上にも多くのヒントがあります。  株式会社SHFのページの「一般ダウンロード用」をダウンロードします。無料です。  ▶ 株式会社SHF 

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