飛行機に働く力
力の種類
飛行中の飛行機には①揚力,②重力,③推力,④抗力の四つの力が働きます。この四つの力の合力が0ならば飛行機の加速度は0ですから等速直線運動(等速度運動)をします。合力が0でなければ,合力の方向に加速度運動します。 図は「等速度運動」をしているときの釣り合いの図です。四つの力の作用点は一点で交わります。(回転の働き,すなわちモーメントは0です。) ① 揚力は主翼だけでなく胴体も含めてあらゆる部分に働きます。図の揚力はすべての部分に働く揚力のベクトル和です。速度と飛行機の傾きにより向きが変化します。 ・揚力が最も大きいのは主翼です。エルロンで左右の揚力を変えられます。 ・ラダーやエレベーターで尾翼の揚力を変えられます。 ・主翼だけの揚力の作用点は図とは異なります。
② 重力も各部分に働く重力のベクトル和です。重力は大きさ,向きは変わらず,重心に働きます。 ③ 推力はプロペラなどが機体に与える力で機体に対して常に一定の向きに働きます。大きさは変えられます。 ④ 揚力,抗力は機体の速度や向きによって変化します。
●力は作用線上を動かしても効果は変わりません。物体が回転しない条件は作用点が一点で交わる(=モーメントの和が0)ことが必要です。また,合力0ならば加速度0(静止または等速度運動)です。 ●抗力は主に主翼と胴体にはたらきます。物体が流体中を移動すれば渦が生じます。渦は負圧(ゲージ圧)なので機体を後ろに引きます。渦を減らすために胴体を流線形にしますが,主翼は渦を生じさせて揚力を発生しているのでこれをなくすことはできません。(誘導抗力) ●実際は揚力,推力,抗力の向きは水平,鉛直ではなく傾いています。ここではおおよそのイメージを示しています。
揚力の向きや大きさの変化 ラダーやエルロンは機体を左右に,エレベーターは前後に傾ける働きをします。その結果,機体が傾き,揚力の向きや作用点が変わります。さらに推力や抗力も揚力の向きや大きさに関係します。それらを使って上昇,降下,旋回します。 (詳しくは「飛行を安定させるには」のページ参照)
推力0であっても機首を下向きにすると揚力のベクトル和が前に傾き,合力を0にできます。このとき飛行機は徐々に高度を下げながら「等速度運動」をします。
グライターは滑空性能が良くで少し機種を下げると滑空します。このとき上昇気流があれば上昇気流の中では徐々に沈降していきますが地面から見ると後を少し上げたまま上昇していくことになります。 車であれば地面からの抗力が働きますが,飛行機は地面からの抗力のかわりに揚力が働いて空中を移動する訳です。 ●重心位置が揚力中心より前(一般的には主翼前縁から1/3の位置)でないときれいに滑空しません。
飛行機はどうやって旋回するか
向心力 円運動している物体には必ず円の中心を向く力が働き,これを向心力といいます。車に働く向心力はタイヤと地面の摩擦力によって生じます。(車の中では向心力と逆向きに遠心力を感じます)
飛行機の場合は機体を傾ける(バンク)ことにより揚力の向きが変わり,揚力の水平成分が向心力になり旋回します。 揚力の水平成分は速度に直角なので向心力になりますが,この力は機体の回転モーメントは持っていません。 機体が傾いたことで機体は円の内側に横滑りします。すると垂直尾翼に当たる気流は横滑りしている向きと反対向き成分を持ち,これが機首を回転させる力となり,滑っている向(円の中心向き)に機体の向きをかえます。
エルロン操作による旋回 エルロン(補助翼)を下げるとキャンパー(翼の湾曲)が変わり揚力が増え,逆に上げると揚力が減ります。これはベルヌーイの定理で説明できます。空気の運動量の変化は翼に与える力積と考えても同じですから下図で考えても同じです。
エルロンは必ず左右の翼で逆に動くので,エルロンを上げ揚力が減ったほうに向きに機体が傾きます。その結果主翼の揚力の向きが,エルロンを上げた方に傾き向心力(揚力の水平成分)が生じ円運動を始めます。 同時に,揚力を下げた側に横滑りを起こします。同時に垂直尾翼により機首の向きも変わります。 このとき高度は下がります。 ●揚力を上げた(エルロンを下げた)方の翼は抗力が下げた方より増えます(速度が増えたので)。この抗力の差は機首を円の外側に向けようとする力になります。それを打ち消すためにはラダーも切る必要があります。この現象をアドバースヨー(adverse yaw)と言います。 模型飛行機ではバンク角を大きく取るので気にする必要は無いようです。
ラダー操作による旋回 ラダー操作により機首の向きを変えると主翼の気流に対する速度がアンバランスになり,速度の遅い方の揚力が減り,機体が傾き円運動を始めます。エルロンの効果と同様に旋回します。 このときも高度は下がります。 同時に,機体が傾くと機体は横滑りして主翼には傾きをもとに戻そうとする力も働きます。(上反角効果)
エルロンによる旋回は機体が傾くのが先,ラダーによる旋回は機首の向きを変えるのが先と言う違いがあります。着陸時,機体の傾きの修正はエルロンの方が優れています。
旋回中のスティック操作 微妙なバランスで飛行機は旋回していると言えます。 機体が傾いたとき揚力の鉛直成分が減る訳ですが,これは傾くことにより翼の水平面への投影面積が減ります。もし角度θ傾いたとしたら面積はcosθ倍になります。 揚力は翼面積と速度の2乗に比例するので同じ揚力を得るためには速度の2乗が1/cosθ倍になれば良いことになります。(「翼型と揚力」のページ参照) 例えば30°傾いたとき cos30°=0.866 1/cos30°=1.155 √1.155=1.075 およそ1.07倍になります。 傾くことで減った揚力は速度を増やしてカバーします。また,高度を維持するためにエレベータを引きますがこのことで抗力も増えます。旋回中は推力を上げる必要があります。 車はカーブでスピードを落としますが飛行機はスピードを上げて旋回します。 ●翼面荷重の大きい飛行機は,この操作は大切です。翼面荷重の小さな飛行機や大きな半径で旋回するときはあまり気になりません。 ●旋回中普通はエルロンもラダーも中立です。機体が傾くまで操作します。旋回をやめるときはエルロンやラダーを逆に切って水平に戻します。 普通はと書いたのは上反角のある機体や重心が主翼の下にある機体は勝手に水平になろうとする力(復元力)が働くのでエルロンやラダーを切り続ける必要があります。エルロンやラダーを中立にすると勝手に水平に戻ります。
主翼の形状と安定性
上反角と揚力 上反角を付けると下図のように揚力の鉛直成分は減ります。
↑①①'の和より②②'和が小さくなります。
上反角による自立安定性 ではなぜ上反角をつけるのかと言うと下図のように横滑りしたとき,横滑りによる風圧の向きは翼の左右で異なる角度になります。
この力を重心方向とそれに直角の方向に分解すると,重心の周りに傾きを補正しようとするモーメントが生じます。(回転軸がないときは重心の周りに回転します。)
上反角をつけることで自立安定性が生じ操縦しやすくなります。模型飛行機の場合はエルロンやラダーをニュートラルにすると傾いていた機体は勝手に水平に戻ります。
上反角と揚力の作用点の移動
上図で比較すると上反角のついた主翼の,揚力のベクトル和の作用点は上に移動します。このことは底翼機の場合は安定性に結構寄与するようです。
翼の位置と自立安定性 機体の上下どの位置に主翼を取り付けるかによって自立安定性が異なります。上下取り付け位置によりつぎのように分類されます。 低翼 胴体の下部 中翼 胴体の中ほど 高翼 胴体の上部 パラソル翼 胴体から上に離れた位置 高翼とパラソル翼は揚力の作用点より下に重力の作用点(重心)があるのでもともと自立安定性があります。したがってあまり上反角はついていません。 戦闘機など運動性能が求められる場合,自立安定性はかえって邪魔なのでほとんどが低翼です。また,近年コンピューター制御が進歩し,揚力にとっては不利な上反角はなくなりつつあります。また高翼機も減少しています。
●高翼を肩翼,パラソル翼を高翼と呼ぶこともあります。 ●安定性に関しては「飛行を安定させるには」のページにさらに説明があります。
後退翼と前進翼の安定性 後退翼にも上反角と同じ効果があります。
機体が傾き横滑りしても左右の揚力は変わりません。
左に傾き横滑りすると左の翼の揚力が増えて右に戻します。
後退翼は機体が傾いて横滑りをすると機体から見た風の向きが変わり,横滑りした方の風に対する翼面積が大きくなり傾きを元に戻そうとします。
前進翼は後退翼と逆の働きで傾きを助長します。大きな上反角が必要です。
テーパー翼の自立安定性 テーパー翼も後退翼ほどではありませんが,同じように風に対する翼面積が変わり復元力が働きます。 実際はテーパー翼で上反角を付けて自立安定を増やしています。
テーパー翼もAよりBが短くなります。
参考文献等 ▶セスナ 150 (Wikipedia) ▶模型航空機の安定 Wikipedia ▶www.cfijapan.com